【番外編】惑溺 SS集

『やだー!松田さーん!!
騙されてるって!絶対その男にだまされてるって!』

『矢野うるさい!黙って帰るよ』

店を出て階段を上る賑やかなふたりの声。
リョウは苦笑しながらゆっくりと扉を閉めて、私の方を振りかえった。


「ずいぶん楽しい忘年会だったみたいだな」

皮肉めいた言い方で、くすりと笑う。

「もう……!
人前で突然あんなことするなんて。
びっくりして心臓が止まるかと思った……」

唇に生々しく残る、彼の舌の感触。
まだドキドキが治まらない心臓を押さえて、カウンターの上に顔を伏せた。

火照る頬の熱を、硬く冷たいカウンターがゆっくりと冷やしていく。


「別に、似合わない口紅つけてるから取ってやっただけだよ」

私はこんなに動揺してるのに。
リョウは何事もなかったかのような涼しい顔で後片付けをはじめた。

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