BirthControl―女達の戦い―
礼子が、何か言っている男を置き去りにして、急にこちらを向いた。


突っ立ったまま、彼女から目を離せなかった裕之は、ロビーでそうとう目立っていたんだと思う。


人混みに紛れることの出来ない状況で、礼子と裕之の視線は必然的に絡まった。


「――ッ!」

「……」


礼子もすぐにあの時の……自分の初めての相手だと気付いたようだった。


「菊地……さん?」


そう呼ばれて、礼子が自分を犯した相手を、きちんと誰なのか知っていたことに驚いた。


「礼子ちゃん……」


カラカラの喉から絞り出すようにようやく名前を口にすると、あの時の苦い思いが甦る。


「ご無沙汰してます

こちらにお勤めなんですね?」


にっこりと何でもないように、彼女はただの知り合いみたいな顔をして裕之にそう声をかけてくる。


裕之は動揺しすぎて返事をしたかどうかさえ覚えていない。


コクンと唾を呑み込んで、ただ彼女の顔を見つめることしか出来なかった。


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