BirthControl―女達の戦い―
「お元気でしたか?」


何の返答もない裕之に、彼女は根気よくもう一度質問してくる。


そこでようやく裕之は、ぎこちない笑みを浮かべて返事をすることが出来た。


「あぁ、はい……

礼子ちゃんも?」


どうにかそれだけを言うことが出来て、少しだけホッとした裕之に、彼女は小さく頷いた。


「この会社に彼が面接に来たんですけど、ダメだったみたいで……

ここも私が見つけて受けるように言ったんですが、やる気……ないみたいで……」


さっきの男を顎で指しながら、うんざりしたように溜め息をつく。


どうやら働かない男に失望しているようだった。


つくづく男運がないんだなと思いながら、あんなことを父親に強いられたのだから仕方がないことなのかもしれないと思い直す。


「菊地さんは、奥様やお子さんお元気ですか?」


「えっ?」


「奥様やお子さんですよ

菊地さん、すごく大切に思ってるみたいだったから

皆さん、お元気なのかなって」


そう言って薄く笑った彼女が、あの時のことを言っているのだとすぐにわかった。


裕之が家族には言わないでくれと必死に懇願したことを言っているのだと……


やはりまだ許してはくれていないのだと、裕之は心底恐ろしくなった。


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