BirthControl―女達の戦い―
「菊地さんはあれから一度も私のところには来ませんでしたよね?

それどころか、父とも関係を絶ってた……

それって私に悪いことをしたって思ってくれた証拠だと思うし、今思えば菊地さん……

他の人と違って優しかった……

だから私、菊地さんが初めての人で良かったって思ってるんです

それに……」


一旦、目を伏せて言葉を切ると、今度は悲しそうな瞳で裕之を見ながら言葉を続ける。


「菊地さん、あの時……

一番に家族のこと考えてた……

あの時は、正直自分の保身しか考えない最低な大人だって思ってたけど……

でも家族を大事にしてるんだってことだけはわかったから……

私もそんな家庭が作りたいって思ったんです

だから、誰かと暮らしてみる気になったんですけど……

そんなにうまくはいかないもんですね?」


そう言った礼子は、どこか遠くを見ながら自嘲気味に笑う。


やはりうまくいってないのだろう……


さっきの男は働かないと言っていた。


あんなヒモみたいな男に礼子はもったいないと裕之は思った。


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