BirthControl―女達の戦い―
「ここ終わったから、ロビーの掃除に行ってくるよ」


洋一に声をかけられて、百合子は現実に引き戻された。


あの時の洋一はもういない。


今はここで清掃担当としてしっかり働いている。


百合子はあれから、梨央に頼み込んで、洋一がここに住込みで働けるよう口添えしてもらっていた。


住むところもなくして、自分を頼ってきた元夫を、見てられなかったから……


本当なら知らんふりして、突き放せば良かったのかもしれない。


けれど百合子たちがこうなったのは、やはり以前のあの政策が原因でもあるのだ。


――百合子ともう一度やり直したい。


洋一はそう言ったけど、それがそのままの意味だとは、到底思えなかった。


仕事を失い、女に捨てられ、迷子の子猫のようにここに辿り着いた時……


あの人の目は愛しい人に逢えた喜びというよりも、自分を助けてくれるかもしれないというすがるような目だった。


だから……


いくら抱き締められても、キスをされそうになっても、何も……感じなかったのかもしれない。


必死に百合子を繋ぎ止めようとする洋一に、失望と嫌悪を抱いたのは確かだった。


確かだったはずなのに……


気が付くと、百合子は洋一を許していた。


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