BirthControl―女達の戦い―
この施設が出来てから、不思議なことに80歳を越える者は一人もいなかった。


毎月健診に訪れるたびに、診る顔は入れ替わり、先月まで元気だったおばあちゃんが、今月にはもう顔が見えないなんてことはザラだった。


さらに70歳を迎えたと同時にここに収容される人達とのバランスは、哲朗がここで施設医を任されてから、崩れたことは一度もない。


職員に尋ねてみても、誰もが知らされていないのか、話すことを禁じられているのか、曖昧に答えるだけだった。


哲朗はそのことに疑問を持ちながらも、自分の考えが合っていた時の恐ろしさで、それ以上は聞くことが出来ずにいた。


敬子をここに連れてこないのは、それが理由でもある。


勘のいい敬子が、この施設の実態に気づかないはずもなく、また正義感の強い性格からして、上に噛みつくことも考えられた。


この有無を言わさぬ独裁的な政治の中で、そんなことをすればなんだかんだ理由をつけて、ここに収容されるのは間違いない。


だからこそ哲朗は一人でこの重苦しい施設に足を運ぶことにしたのだ。


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