Over Line~君と出会うために
「は?」
「今度、スイートキューティの関連で原画展やるんだ。それの打ち合わせもあって、今日は出て来たんだけどさ。招待券送るから」
「え……」
「それと、ラフでよければ一枚くらい描いてやるよ。そいつの好きなキャラ。誰が好きなんだよ?」
「あすか……だと、思う、けど……」
確か、貴樹の口走っていた名前はそれだったはずだ。貴樹との会話を思い出しながらそう答えれば、大輔はふんふんとうなずいた。
「あすかね……おっけ、ちょっと待ってて」
なんて言って、大輔は持っていたカバンからスケッチブックを取り出し、さらさらと描き始める。その表情はいつもとは随分と違って見えて、それが大輔の仕事の顔なんだろうなと思わざるを得ない。
大輔を異性として見たことは残念ながらないのだけれど、彼のこういう真剣な表情はとても魅力的だとは思っている。彼に恋人がいないのは不規則な仕事のせいなのか、彼のプライベートのディープさゆえなのか、謎なところだ。
貴樹のことを好きだとか、そういう気持ちは、正直まだわからなかった。
ただ、気になる。メールが来ると、何となく嬉しい。今はまだ、たぶん、それだけなのだ。
最初は、何だこいつ、という気持ちの方が大きかった。
頭の軽そうな、礼儀を知らないヤツ、と思ったことは事実だ。
だが、その後に見せた貴樹の態度は誠実だと思ったし、メールでのやり取りや交わした会話の端々から感じられる彼の性格は、その印象とは逆に生真面目なのかもしれないと思い直すこともできた。
それらを総合すれば、気に入っている、と言うのかもしれない。それが、今すぐに大輔の言うような関係まで飛躍するとは考えられない。
「よーし、できた。鉛筆書きの雑で適当なラフだけど、少しは喜ぶんじゃないのか?」
そう言って大輔が差し出したスケッチブックには、見慣れた彼のタッチで可愛らしい女の子が描かれていた。適当な、と彼自身は言うが、彩にはそれのどこが適当で雑なのかがわからない。こういうものは、本当に才能なのだな、と感心するだけだ。
「相変わらず、大輔の絵は肉感がすごいね」
「むっちり可愛いと言え」
「でも、ありがとう。……うん、あの人、かなり好きみたいだったから、喜ぶかも」
とは言え、この件をどうやって伝えればいいのか、彩は考えあぐねていた。
あんな、彼が途中でやめてしまった会話の端を拾って連絡したというのも、何となく言いづらい。かと言って、彼からの連絡を待っているのも、それはそれで変な気がする。
今までそういうこととほとんど縁がなかっただけに、どうしたらいいのか迷ってしまうのだ。
当の貴樹が、どうしよう、彩さんのこと好きになっちゃったかもしれない……と、似たようなことで平和に悩んでいることなど、彩は知る由もなかった。
「今度、スイートキューティの関連で原画展やるんだ。それの打ち合わせもあって、今日は出て来たんだけどさ。招待券送るから」
「え……」
「それと、ラフでよければ一枚くらい描いてやるよ。そいつの好きなキャラ。誰が好きなんだよ?」
「あすか……だと、思う、けど……」
確か、貴樹の口走っていた名前はそれだったはずだ。貴樹との会話を思い出しながらそう答えれば、大輔はふんふんとうなずいた。
「あすかね……おっけ、ちょっと待ってて」
なんて言って、大輔は持っていたカバンからスケッチブックを取り出し、さらさらと描き始める。その表情はいつもとは随分と違って見えて、それが大輔の仕事の顔なんだろうなと思わざるを得ない。
大輔を異性として見たことは残念ながらないのだけれど、彼のこういう真剣な表情はとても魅力的だとは思っている。彼に恋人がいないのは不規則な仕事のせいなのか、彼のプライベートのディープさゆえなのか、謎なところだ。
貴樹のことを好きだとか、そういう気持ちは、正直まだわからなかった。
ただ、気になる。メールが来ると、何となく嬉しい。今はまだ、たぶん、それだけなのだ。
最初は、何だこいつ、という気持ちの方が大きかった。
頭の軽そうな、礼儀を知らないヤツ、と思ったことは事実だ。
だが、その後に見せた貴樹の態度は誠実だと思ったし、メールでのやり取りや交わした会話の端々から感じられる彼の性格は、その印象とは逆に生真面目なのかもしれないと思い直すこともできた。
それらを総合すれば、気に入っている、と言うのかもしれない。それが、今すぐに大輔の言うような関係まで飛躍するとは考えられない。
「よーし、できた。鉛筆書きの雑で適当なラフだけど、少しは喜ぶんじゃないのか?」
そう言って大輔が差し出したスケッチブックには、見慣れた彼のタッチで可愛らしい女の子が描かれていた。適当な、と彼自身は言うが、彩にはそれのどこが適当で雑なのかがわからない。こういうものは、本当に才能なのだな、と感心するだけだ。
「相変わらず、大輔の絵は肉感がすごいね」
「むっちり可愛いと言え」
「でも、ありがとう。……うん、あの人、かなり好きみたいだったから、喜ぶかも」
とは言え、この件をどうやって伝えればいいのか、彩は考えあぐねていた。
あんな、彼が途中でやめてしまった会話の端を拾って連絡したというのも、何となく言いづらい。かと言って、彼からの連絡を待っているのも、それはそれで変な気がする。
今までそういうこととほとんど縁がなかっただけに、どうしたらいいのか迷ってしまうのだ。
当の貴樹が、どうしよう、彩さんのこと好きになっちゃったかもしれない……と、似たようなことで平和に悩んでいることなど、彩は知る由もなかった。