Over Line~君と出会うために
「面白い……ねぇ」
「私はこういうのにまるで興味がないから、大輔に何を言われても来る気になんてならなかったけど、知らないものを見るのは新鮮だと思うよ」
 会場内をゆっくりと見て歩きながら、展示されているものについて言葉を交わす。
 じっくり見たいのと、彩と喋るのに気を取られそうになるのとで、貴樹の意識は目まぐるしく切り替わる。
 うっかりするとスイッチが入って薀蓄を語ってしまいそうだし、かと言って、黙ったままでいるというのも何だか微妙な空気が漂う。やはり、こういうのは一人で来るべきだと思うが、誘いを断らなかったことを後悔するつもりもない。
 様々な想いが交錯して、貴樹の思考回路はほとんど不審者だ。絵を見たり、隣の彩を見たりと、視線の動きが怪しいこと極まりない。招待客しかいない日でよかった、と言うべきかもしれなかった。
 話を聞いている限り、彩がこの手のものにほとんど興味がないと言うのは、事実らしい。ナマの原画の美麗さに興奮のあまり、舞い上がってべらべらと喋りそうになるのを必死で堪えながら、彩から向けられる質問にひとつひとつ答えて行く。幼馴染だというのに、彼女は彼の仕事の内容をほとんど知らないらしく、それを説明するたびに驚くのを見るのは楽しかった。
 スケジュール的には、このイベントに来ることすら難しかった。今日が空いたのは偶然だったし、空いていたとしても、彩が招待券を持っていなかったら入ることもできない。もし、奇跡的にこのイベントに来ることができていたとしても一人で見ているだけだったのだから、こんなふうに誰かに話してその場の感想を聞いてもらうというのは、またとない機会だった。
 それでも、と疑問に思う。
 何故、彩はこのイベントに誘ってくれたのだろう。
 確かに彩の幼馴染がミサカダイスケだというのは事実なのだろう。興味がないという彩が、このイベントの招待券を持っていることから、それはわかる。だが、だからと言って、それが貴樹を誘う理由にはならない。もちろん、誘われたのは嬉しかったし、こうして彩が楽しんでいるように見えるのも嬉しいのだけれど、その真意がどこにあるのかを思うと不安になる。
(……やっぱり、俺、彩さんのこと好きになっちゃったのかなぁ)
 冷静に考えて見ると、自分は彩に恋をしているように、思う。彼女の一言が嬉しくて、彼女の隣に立つことが幸せでたまらない。大体、降って沸いた急なオフに彼女に誘いを入れようとすること自体が、その証拠だ。いつもなら、たまのオフに出かけるなんてことを考えたりはしない。録画アニメの消化か、積みゲームを眺めてニヤニヤするか、そんな程度に決まっている。
 彩との時間を、もっと持ちたい。今の貴樹の状況が、それを許さないのかもしれないとわかっていても。
 それほど混みあっていなかった原画展をゆっくりと見て回ってから、近くにある駅ビルへと食事のために移動した。 
 そこそこに混んでいる駅ビルの中を話しながら歩いていると、彩が気に入っているというブランドショップを見つけた。そこで買い物をしたいという彩に付き合って何点か選び、彩が会計に並んでいる間、貴樹は人の邪魔にならないように店の外に出ようとする。
 その瞬間、入ろうとしてきた制服姿の女の子とぶつかりそうになった。
< 21 / 119 >

この作品をシェア

pagetop