Over Line~君と出会うために
「あ、すみません」
咄嗟に謝ると、ぶつかりそうになった女子高生と思しき彼女はうつむいていた顔を上げて、貴樹の顔を見た。その表情に、「あれ?」という驚きが浮かんでいる。
やばい、と思うのと同時に帽子を引き下げて、表情を隠す。
だが、彼女は貴樹の顔を見てしまっただろう。目の前の表情が変わったのがわかる。顔を隠したところで、今更だ。
それでも、いきなり声をかけることには躊躇いがあるらしい。彼女が声を迷っている隙に、貴樹はさっと身を翻して店の外に出た。
心臓の鼓動が速くなる。今のはまずい。おそらく、完全にばれた。視界の端に、彼女が遅れてきたらしい連れの少女と、何やらこそこそと耳打ちしあっている様子が窺える。一人では難しくても、二人になったら声をかけてくる可能性は大きい。
どうしよう、と思う。とにかく、彩に知られる前に何とかしなければならない。
ちらりと店内へ視線をやれば、会計に手間取っているらしく、彩はこちらに背を向けたままだ。どういう展開になったとしても、今なら彩に知られずに済む。自分一人でなら、どうにでも切り抜けられるはずだった。何か言われたら他人の空似で押し通せばいいし、見つかって声をかけられた時、貴樹はそういう手段でいつも逃げ出していた。オフィシャルで見せている貴樹の雰囲気と、オフの時の貴樹とのギャップがかなりあることから、その成功率は高い。追っかけに近いファンにそれは通用しないが、一般人ならそれで通る。
「あの」
嫌な予感というのは、こういう時に限って当たるものだ。
二人になって気が大きくなったのか、押し問答をしていた二人の少女が、店の外に出た貴樹の方へ近づいてきて声をかけた。
「……何」
意識して声色を変えて、いつもとは違う自分を演出する。こんなことで誤魔化せるかどうかなんてわからないけど、やらないよりはいい。
咄嗟に謝ると、ぶつかりそうになった女子高生と思しき彼女はうつむいていた顔を上げて、貴樹の顔を見た。その表情に、「あれ?」という驚きが浮かんでいる。
やばい、と思うのと同時に帽子を引き下げて、表情を隠す。
だが、彼女は貴樹の顔を見てしまっただろう。目の前の表情が変わったのがわかる。顔を隠したところで、今更だ。
それでも、いきなり声をかけることには躊躇いがあるらしい。彼女が声を迷っている隙に、貴樹はさっと身を翻して店の外に出た。
心臓の鼓動が速くなる。今のはまずい。おそらく、完全にばれた。視界の端に、彼女が遅れてきたらしい連れの少女と、何やらこそこそと耳打ちしあっている様子が窺える。一人では難しくても、二人になったら声をかけてくる可能性は大きい。
どうしよう、と思う。とにかく、彩に知られる前に何とかしなければならない。
ちらりと店内へ視線をやれば、会計に手間取っているらしく、彩はこちらに背を向けたままだ。どういう展開になったとしても、今なら彩に知られずに済む。自分一人でなら、どうにでも切り抜けられるはずだった。何か言われたら他人の空似で押し通せばいいし、見つかって声をかけられた時、貴樹はそういう手段でいつも逃げ出していた。オフィシャルで見せている貴樹の雰囲気と、オフの時の貴樹とのギャップがかなりあることから、その成功率は高い。追っかけに近いファンにそれは通用しないが、一般人ならそれで通る。
「あの」
嫌な予感というのは、こういう時に限って当たるものだ。
二人になって気が大きくなったのか、押し問答をしていた二人の少女が、店の外に出た貴樹の方へ近づいてきて声をかけた。
「……何」
意識して声色を変えて、いつもとは違う自分を演出する。こんなことで誤魔化せるかどうかなんてわからないけど、やらないよりはいい。