Over Line~君と出会うために
 お礼を言ってそこに腰を下ろし、大輔とは逆隣の空席に溜め息をついた。
会場内の席はほとんど埋まっている。きっと、ここに貴樹が来るつもりなのだろう、と思う。開演までには行く、ということだったから、ギリギリに来るのかもしれない。
 座ったまま、ぐるりと首を廻らせて会場を見回す。見た限り、かなり大きな会場のようだった。さっき、ちらりと見た案内図に書かれていた収容人数は五千人ほどの人数が書いてあった気がする。
 何と言うか、見当もつかない。
 そんな会場で彩たちが案内されたのはかなり前の方の座席で、ステージの上のセットや、そこで準備のために走り回っているスタッフの姿がはっきりと見えている。ここまで大きい会場だと、後ろの方からはステージの上の人間など豆粒くらいにしか見えないのでは、と思いながら、彩は前方のステージへと視線を戻す。
 貴樹が置いて行ったチケット。何のステージなのかもよくわからなかったし、興味もなかったから、普段だったら行かなかったはずだ。だけど、貴樹がくれたのだから意味があるのかもしれない、そう思ってしまった。
この前は頭に来ていたから、いろいろ文句を言ってしまったけれど、彩は貴 樹と別れたいと思ってはいない。ただ、もう少し話をして欲しい。貴樹のことを知りたい。そう思っているだけなのだ。
 それでも、今の彩は貴樹を信じられる。以前よりも、距離が近くなったからだ。それは、ようやく一線を越えたから、というのもあるだろう。
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