理想の恋愛関係
もう失うものは何もない。


この怒り、龍也に叩きつけてやる!


掴みかかる勢いで龍也に詰め寄ろうとすると、横から腕が伸びて来て強い力で止められた。


「……え?」


邪魔するのは誰?!


イライラとしながら振り返ると、険しい顔の優斗君に言われてしまった。


「緑さん、落ち着いて」

「……でも」

「少し下がっていて」

「はい……」


いつになく強い優斗君の言葉に、ドキリとして怒りもどこかに消え去った。


……優斗君?


なんだかいつもと雰囲気が違う気がする。


不安になりながらも言われた通り下がり、成り行きを見守る。


優斗君は龍也の前に立つと、落ち着き払った声で言った。


「神原さん。過去の緑さんとの関係について、軽々しく他人に話すのは良くないと思います」

「……!」


諭すように言われ、龍也は屈辱を感じたのか顔を歪めた。


「今後、今のような事は口にしないで下さい」

「……プライベートな事について、二ノ宮さんの指図を受けるつもりは有りません」


苛立ったような龍也に、優斗君は、

「そうですか。でも今のままでは神原さん自身の評価が下がるだけですよ」

あっさりと言い龍也を黙らせた。


優斗君はワナワナとする龍也に、冷めた視線を送りながら続けた。


「急いでいますので、俺達はこれで失礼します」


そうして私の手をグイと引っ張ると、スタスタとホテルの高層階用エレベーターに向かって歩き始めた。
< 286 / 375 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop