黒猫のアリア



私の殴った箇所がまだ痛むのか、モルペウスは腹を押さえながら答えた。


「え、仕事なんてしてないよ」

「……は?」

意味のわからない笑みと共に言葉が漏れた。


「俺の家、資産家なんだ」

なんてことないようにさらりと告げられた言葉に私は面食らってしまった。

資産家。お金持ち。だから黒猫の報酬も必要ない。ぬくぬくとした温室での暮らし。平穏。

きょとんと目をまるくした私にくすりと微笑んで、モルペウスは私の頭を優しく撫でた。


「また今夜例の場所で会おう。仕事の邪魔してごめんね。――アンちゃん」

くるりと背中を向けたと思ったら、モルペウスは瞬く間に通行人の影に紛れて見えなくなった。

私はぱちぱちと何度か瞬きを繰り返してから、買い物かごを抱え直して行きつけの店へ急いだ。








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