黒猫のアリア
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夜。時計塔前広場は大勢の警備隊で溢れかえっていた。ビッグ・タワーの針は、まもなく真上を差す。
「本当に上手く行くのかねえ……」
背の高い木の上でそうぼやきつつ、私はマッチに火を点けた。チッと小気味良い音を立てて炎が上がる。モルペウスから受け取った爆竹に点火して、私は眼下を見下ろす。
「誰も居ないところっと……」
警備隊が集まっている時計塔前広場を避けて爆竹を投げる。導火線の火が爆薬に届くまでのわずかな時間を利用して、私はその場から急いで離れた。
背中で爆発音を聞きつつ、広場の隅の木陰に隠れる。その一瞬あとに、音を聞きつけた警備隊が大勢流れ込んできた。
「ついに来たか黒猫め!」
「爆弾か!?」
「いや、ただの爆竹です! ここに燃えカスが」
一気にパニック状態になった広場。私は木陰に隠れて様子を窺いながら、手ごろなターゲットを探した。
(……お、あいつ新人っぽいわね。警戒が甘い)
こちらに背を向けて騒ぎの様子を探っている警備隊の一人に近づく。木陰から少しずつ距離を詰めて、私は闇に紛れて彼に腕を伸ばした。声を出されないよう口に手を当てて、首の後ろに強烈な手刀を放つ。彼は声も出せないままがくりと意識を失い、膝を着いた。他の警備隊に気づかれないように気を配りながらその体をずるずると木陰に引っ張っていき、静かに横たえた。