黒猫のアリア



「ごめんね。ちょーっと服借りるわよ」

急いでその警備隊員から制服を剥ぎ取って着替える。長い髪はまとめて帽子の中に仕舞った。ほとんど裸になってしまった彼のために、気休め程度に自分のコートを掛けておいた。

こっそり木陰から抜け出し、騒ぎに乗じて警備隊の群れの中に潜り込む。爆竹の燃えカスの周りに集まる警備隊を横目に、私は時計塔へ走り出した。


「待て! 何があった?」

時計塔の入り口を警備していた一人に止められる。私はさも急いで走ってきた体を装って、ハアハアと息を切らせながら話した。息を整えようと努力するフリも忘れない。


「広場で爆発があったんだ。もし黒猫が俺たちの気を引くためにやったんだとしたら、もう中に忍び込んでいるかもしれない。様子を見に行くよう隊長に命じられた」

なるべく声を低くし、帽子を目深に被って警備隊のふりをする。


「そうか。だが、中にも隊員はいる。何かあったらすぐにわかると思うが……」

「やつらは黒猫だぞ! 音を立てずに仕事をこなすことなんて朝飯前なんだ! この間だって、それで一杯食わされた……くそっ!」

私の迫真の演技に迫力負けしたのか、彼は少し戸惑いながらも道をあけてくれた。


「俺はここを離れるわけにはいかないが、何かあったらすぐに大声を出せよ」

「ああ、わかった」

優しい忠告をしてくれる彼に軽く手を上げて答え、私は階段を駆け上がり始めた。



< 26 / 33 >

この作品をシェア

pagetop