黒猫のアリア
「ごめんね。ちょーっと服借りるわよ」
急いでその警備隊員から制服を剥ぎ取って着替える。長い髪はまとめて帽子の中に仕舞った。ほとんど裸になってしまった彼のために、気休め程度に自分のコートを掛けておいた。
こっそり木陰から抜け出し、騒ぎに乗じて警備隊の群れの中に潜り込む。爆竹の燃えカスの周りに集まる警備隊を横目に、私は時計塔へ走り出した。
「待て! 何があった?」
時計塔の入り口を警備していた一人に止められる。私はさも急いで走ってきた体を装って、ハアハアと息を切らせながら話した。息を整えようと努力するフリも忘れない。
「広場で爆発があったんだ。もし黒猫が俺たちの気を引くためにやったんだとしたら、もう中に忍び込んでいるかもしれない。様子を見に行くよう隊長に命じられた」
なるべく声を低くし、帽子を目深に被って警備隊のふりをする。
「そうか。だが、中にも隊員はいる。何かあったらすぐにわかると思うが……」
「やつらは黒猫だぞ! 音を立てずに仕事をこなすことなんて朝飯前なんだ! この間だって、それで一杯食わされた……くそっ!」
私の迫真の演技に迫力負けしたのか、彼は少し戸惑いながらも道をあけてくれた。
「俺はここを離れるわけにはいかないが、何かあったらすぐに大声を出せよ」
「ああ、わかった」
優しい忠告をしてくれる彼に軽く手を上げて答え、私は階段を駆け上がり始めた。