黒猫のアリア
歯車の軋む音が塔全体に響き渡っている。騒音に遮られて、会話をするのも難しそうだ。
私は螺旋階段を見上げてため息を吐いた。走ることはとうにやめていた。
「ったく、いつまで続くのよこの階段……」
ずっと上の方まで螺旋階段は続いている。上っているうちに目が回ってしまいそうだ。
「モルペウスめ……。手を貸すのはこれっきりよ……」
演技ではなくハアハアと息を切らせながら上り続ける。
てっぺんの部屋まであと数メートルとせまったところで、私は立ち止まり再びポケットから爆竹を取り出した。
「ハア……、よし。これで仕上げ……っと」
チッとマッチを擦って火を点ける。爆竹に点火してから螺旋階段の真下へそれを投げ入れた。遥か下から爆発音がする。
――二度目の爆発は私がここに居る合図。そろそろモルペウスが行動を起こすはずだ。
上の部屋がにわかにざわつき、すぐに一人の警備隊員が出てきた。真下の爆発に驚いているフリをしている私に気づいて声をかける。
「どうした! 何があった?」
「いや、わからない。俺は広場の騒ぎを聞いて、様子を見に行くよう命じられたんだ」
私が目を見開いて驚く演技を見せると、彼は「そうか」と納得したように頷き、焦ったように言葉を続けた。
「こっちにまだ黒猫は現れていない。俺が下の様子を見てくるから、お前は代わりに上の部屋を頼む」
「わかった。頼む」
重々しくそう言って彼を見送る。