ナギとイザナギ
次の日、学校からの帰り道、イザナギさんを見かけたので、こっそりあとをつけてみることにした。
公園の茂みから深い森に通じた、不思議な道だった。目の前には盛り土してある墓のようなものがあった。
なんだっけ、箸墓とかいうのが、父さんの考古学の本に載っていたような記憶がある。
とにかく、あとを追ってみよう。
林の道を進んでいくと、やがて周囲は徐々に暗く、深い黒に染まっていき闇に包まれた。
これが俗に言うあの世、黄泉の国だろうか。話に聞いていたが、なんともいえない気味の悪さがある。
闇の中に浮かび上がる謎のあずまや。障子の窓からオレンジ色の光が漏れていた。障子を開け覗いてみた。
イザナギさんはイザナギさんとよく似た顔の女の人と向かい合って話していた、なぜかその表情は困惑していた様子で。
「どういうつもりだ、イザナミよ」
イザナギさんは懐から像をイザナミというひとに見せてから、叫ぶように言った。
「なぜ今になってこういうことをする」
「あぁら。あなたが悪いんじゃない。浮気するから。あんな小娘なんかに熱上げてサ」
「イザナミッ。これ以上何かするなら、考えがあるぞ」
「考え、ですって。嗚呼、腹の立つ。そうよ」
イザナミはすっくと立ち上がり、袖で口元を押さえた。
「あのときの宣言では、1000人くびり殺すと申し上げましたけれど、つまらないから、やめにしますわ。あなたはあれから、100人も産んでいらっしゃらないようですから」
「少子化が進んでいてな。と、そのことは論外だろ、論外ッ。どうする気だ、この人形にかけられた呪いは。今日はそのことで来たんじゃないかっ」
あのときの、宣言。なんのことだろう。僕は夢中になってさらに覗き込もうと力をこめた、すると、踏み台にしていた石が転がって、障子窓を破いてしまったのだった。しまった。
「ふふっ。あなたを追って来たのね、おいしそうなガキが」
イザナミは裂けた口元を僕に向けて舌なめずりをした、その様子があまりに不気味で背筋が凍る。
「や、やめろ、ナギに手は出すな」
「そう。そこまでいうなら、やめておくことにしましょうか。これ以上あなたに恨まれてもしょうがないですから」
イザナギさんは僕を背中にかばったまま、腰の剣に手をかけていた、イザナギさんが家にいるときはこんな剣を持っていたことなどなかったのに。
でも、そうか。僕はイザナギさんをこのとき初めて、かっこいい、と思えたんだよね。本当に神様だったのだと。ううん、たぶん、僕だけの神様なんだ、とね。
公園の茂みから深い森に通じた、不思議な道だった。目の前には盛り土してある墓のようなものがあった。
なんだっけ、箸墓とかいうのが、父さんの考古学の本に載っていたような記憶がある。
とにかく、あとを追ってみよう。
林の道を進んでいくと、やがて周囲は徐々に暗く、深い黒に染まっていき闇に包まれた。
これが俗に言うあの世、黄泉の国だろうか。話に聞いていたが、なんともいえない気味の悪さがある。
闇の中に浮かび上がる謎のあずまや。障子の窓からオレンジ色の光が漏れていた。障子を開け覗いてみた。
イザナギさんはイザナギさんとよく似た顔の女の人と向かい合って話していた、なぜかその表情は困惑していた様子で。
「どういうつもりだ、イザナミよ」
イザナギさんは懐から像をイザナミというひとに見せてから、叫ぶように言った。
「なぜ今になってこういうことをする」
「あぁら。あなたが悪いんじゃない。浮気するから。あんな小娘なんかに熱上げてサ」
「イザナミッ。これ以上何かするなら、考えがあるぞ」
「考え、ですって。嗚呼、腹の立つ。そうよ」
イザナミはすっくと立ち上がり、袖で口元を押さえた。
「あのときの宣言では、1000人くびり殺すと申し上げましたけれど、つまらないから、やめにしますわ。あなたはあれから、100人も産んでいらっしゃらないようですから」
「少子化が進んでいてな。と、そのことは論外だろ、論外ッ。どうする気だ、この人形にかけられた呪いは。今日はそのことで来たんじゃないかっ」
あのときの、宣言。なんのことだろう。僕は夢中になってさらに覗き込もうと力をこめた、すると、踏み台にしていた石が転がって、障子窓を破いてしまったのだった。しまった。
「ふふっ。あなたを追って来たのね、おいしそうなガキが」
イザナミは裂けた口元を僕に向けて舌なめずりをした、その様子があまりに不気味で背筋が凍る。
「や、やめろ、ナギに手は出すな」
「そう。そこまでいうなら、やめておくことにしましょうか。これ以上あなたに恨まれてもしょうがないですから」
イザナギさんは僕を背中にかばったまま、腰の剣に手をかけていた、イザナギさんが家にいるときはこんな剣を持っていたことなどなかったのに。
でも、そうか。僕はイザナギさんをこのとき初めて、かっこいい、と思えたんだよね。本当に神様だったのだと。ううん、たぶん、僕だけの神様なんだ、とね。