その指に触れて
「もう一ラウンド」


晃彦が後ろから抱き寄せて首筋に唇を落とす。


「ダメ。体が持たない」

「いいじゃん、泊まっていけば」

「ふざけないで」

「こんな関係になってもつれないな」


ようやくあたしの体から離れる。


「ちゃんとしてるんだから感謝してもらいたいわ」

「……わかってるよ」


晃彦は服を持って着替え始めた。


やってるときは可愛いのになと呟いているのが聞こえた。


あんまり聞きたくない。


あたしはだんまりを決め込んだ。


「万梨子」

「何」

「お互い大変だな」

「何のこと?」

「お互い片思いでさ」

「あんたはまだいいじゃない。受け入れられてるから」

「まあな」


何が言いたいのか。


たぶん、今あたし達は情緒不安定なのだと思う。


お互い、話の趣旨がわからない。


あたし達はたぶん同じ思いを抱えている。


窓の外は薄暗く、くすんで見えた。


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