俺様編集者に翻弄されています!
 執筆中のとある昼下がり―――。

(はぁぁ……結局、今年もお花見行けなかったなぁ、お花見屋台のお団子にりんご飴にベビーカステラ……)

 徐々に変わりつつある季節を、悠里は遠い目をして窓の外を眺めた。奥多摩の方に行けばまだ桜も残っているかもしれないが、新宿御苑や代々木あたりの桜はもう散り始めていた。


 氷室も最近、毎日深夜遅くまで仕事に追われていて、用がある時や修正がある時などは主にメールやデータでやり取りしている。

 仕事だということはわかっていたが、氷室が“家に行く”と言った時は、なぜか嬉しかった。けれど、あれから氷室が悠里の家に来たことは一度もなかった。

(近いうちにうちに来るかもって言ってたのに……)


 ゴールデンウィークに入ると、印刷会社も連休になるため、前倒して仕事を進めなければならない、それは作家も同じことだが、悠里はそんな焦りも見せずまったりとしていた。


(眠いな……)


 時計を見るととっくに昼も過ぎた十四時だった。暖かな昼下がりの日差しが部屋に差し込んでほんわかと心地いい。


 実際、悠里の原稿はかなりのスピードで進んでいて、改訂中ではあるが2ヶ月先の原稿はすでに仕上がっていた。


だからといって気を抜くな、と氷室にはうんざりするほど言われたが、それでも身体はだらだらとしてしまう。


 執筆もひと区切りしたところで手を止めて、ベッドにもたれかかると、自然に欠伸がでる。


(お昼食べたら眠たくなってきたな……だめだ、頭が働かない……あぁ、こんな時に癒しのイケメン執事様が膝枕とかしてくれたらやる気も出るのになぁ……)
< 117 / 340 >

この作品をシェア

pagetop