俺様編集者に翻弄されています!
『やっぱり……北村さんに電話かけるといつも眠ってるな』


「やっぱりと思ってかけてくるあたり氷室らしいな? お前、今こっちは何時だと思ってんだ、安眠妨害もいいとこだぞ」


『どうせ眠れてなかったんだろ? まぁいい、大海出版に異動するの明後日になった』


「……え? はぁぁ!?」


『こっちでやり残した仕事もない、日本みたいに送別会っていうの? そういう習慣もない、あってもだるいだけだしな』


「相変わらず付き合い悪い男だな。明後日っていきなり言われても全然こっちは―――」


『日本はもう桜が咲いてるんだろ? こっちは一日吹雪だった……ニューヨークの気候にはもううんざりだ、俺が寒いの嫌いだって知ってるだろ?』

 ふてぶてしいまでに飄々としている電話の相手に、北村が眉を歪めながら頭を掻いた。


「氷室、お前まさかそれが理由で早々に仕事切り上げて日本に帰国するんじゃ……もううんざりってお前何年そっちに住んでるんだよ、今更―――」


『そういうことだから、明後日よろしく』


「おい、待て! 氷室!」


 あの男が帰ってくるのか……。

 北村は額に手の甲を宛てがいながら部下に説明する術を考えなければならなくなった。
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