俺様編集者に翻弄されています!
 今日は真夏にしては少し肌寒かった。


 悠里は大海出版に出向き、ミーティングルームで北村が来るのを今か今かと手に汗握りながら待っていた。

 しばらくしてから北村が驚いたような表情で部屋に入ってきた。



「お久しぶりですね。今朝、突然電話で話しがあるなんて言うもんだから何事かと思いましたよー」


「すみません、急にお呼びだてして……」

 悠里は北村の前で頭を下げると、北村はさして気にすることもなく笑った。


「でも、後藤先生なんかアポなしでいきなり来るから、それに比べたら常識的というか……あの人が変わってるだけなのかもしれませんがね」


 鷹揚に笑って北村が悠里の向かいに座った。


「それで、話しというのは?」


 北村は時間があまりないのか、世間話もそこそこにして直入に本題に入った。

 悠里はバッグの中から原稿を取り出すと、北村の目の前に出した。


「これは……?」


 原稿に目を落とし、北村は怪訝な顔つきで悠里を見た。



「「艶人」の次回の連載予定の原稿です。宮森さんにはまだ見せてません」


「……」


「まだ、書き出し途中の段階なんですけど、この原稿をまず北村さんに見てもらいたかったんです」


 北村はまったく悠里の意図が見えないというように、顎に指をあてがいながら原稿に目を軽く通しだした。



 悠里はその様子を固唾を呑んで、北村が原稿から顔を上げるのを待った。

 部屋に響く秒針の音がやけに耳障りに聞こえる。

 北村は始め、原稿をただ斜めに読み流す程度のつもりだったのか、ぼんやりした目が次第に原稿に釘づけになっていくのがわかった。
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