俺様編集者に翻弄されています!
『Hello?』


 ロディの声がして、悠里は思わず受話器を握り締めて前のめりになった。


「あ、あの! 高峰です! 覚えてますか? 飛行機で一緒だった……」


『え? 悠里さん?』


「はい!」


 絶体絶命の大ピンチの時に聞く見知った人の声ほど安心するものはない。


『どうしたんですか? まさか、本当に電話がかかってくるなんて思いませんでした』



 悠長に長話をしている余裕は悠里にはなかった。コインケースを開くともうコインが残っていなかった。


「すみません、あの! 私、人探しをしにニューヨークに来たってお話ししたの覚えてますか?」


『あ、ああ……確かそう言ってましたね、見つかったのですか?』


「私の探してる人って、氷室美岬って人なんですけど、前にそこの出版社で編集者やってた―――」


『え……? 氷室?』




 頭の中を整理せずにそのまま口から出る言葉は、まるで言葉になっていないように思えた。


 心臓が押しつぶされそうなほどの速い鼓動に息切れする。



『やっぱりですか……』


「え……?」


『悠里さんの探し人って、美岬のことだったんですね。まさか……とは思いましたが……実は彼、さっきまで私と一緒にいたんですけどね―――』


 やっと氷室の手がかりが掴めた。そう思うと一気に胸が弾んだ。。


(見つけた! やっと……)


 手を伸ばせば追いつきそうな距離に氷室がいる。




『美岬と今日、一緒にランチをしたんですけど、残念ながらもう一緒じゃないんですよ……』


「え? 一緒じゃない……?」

 高揚した気持ちがその言葉で一気にしぼんで、光の扉を目の前で閉じられたような気分になった。


『すみません、こんなことなら……もう少し、彼を引き止めておくべきだったかな』


「い、いえ……いいんです、氷室さんがどこに行ったかわかりませんか?」


『うーん……もしかしたら彼は――』


 ロディはしばらく考えて間を取った。そして、思い当たることを言いかけたその時。


 プーーー。


 無情な機械音とともに電話が切れた。


 悠里は呆然と受話器を耳にあてがったまま立ち尽くしていたが、ようやくコイン切れで通話が途絶えたのだと気づくと、諦めたように受話器を置いた。
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