俺様編集者に翻弄されています!
 宮森の言葉が脳裏に蘇って、悠里はM&Jといところが氷室がニューヨークで仕事をしていた場所だということを思い出した。

 そう思うといてもたってもいられなくなり、悠里は焦る気持ちを抑えてバッグを探った。


(そうだ、携帯……持ってなかったんだ)

 悠里はがくりと肩を落として、すぐ目の前に氷室の手がかりがあるのに、どうすることもできずただうなだれた。


「……ん? あれは」


 悠里は道路を挟んだ向こうに公衆電話を見つけた。希望の糸をたぐり寄せるように、悠里はその場をすぐに立ち上がった。



(ああ! どうして今まで名刺の会社名に気づかなかったんだろう……馬鹿馬鹿!)



 海外の公衆電話など初めて触れるが、無我夢中で戸惑っている場合ではなかった。

 コインをいれると、名刺に書かれた番号を震える指で押していく―――。




『Hello. This is M&J publishing』
<はい、こちらはM&J 出版です>


「え、えっと……」


(しまった……つい、勢いで電話かけちゃったけど……なんて言っていいかわからない)



 悠里は自分の語学力のなさに苛立ちを覚えながら、なんとか言い繕おうとする。



『Well. Sorry I don't get it ……』
<すみません、意味がわからないのですが……>


 電話を受けているのはおそらく受付嬢だ。ならばロディの名前を出せば何か通じるかもしれない。と考えが閃いて、悠里はどもりながらも言葉にする。



「ア、アイウォント スピーク……ミスター アーレント プ、プリーズ」



 ナオママに教えてもらったもしもの時の英会話だったが、こんなところで役に立つとは思ってみもなかった。

『I see ok』
<わかりました>

 受付嬢は怪訝に思いながらもどうやら取り繋いでくれるらしかった。悠里はホッと胸をなでおろし、コインを入れ足し入れ足ししながら、ロディが電話に出るのを待った。


 その時――。
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