月宮天子―がっくうてんし―
  *****


「幼稚園だったのねぇ。私はてっきり小学校の先生だと思ったわ」


朝の和やかな食卓風景であった。

母も姉もどうやら海が気に入ったらしい。それがどうも愛子には面白くない。


「幼稚園って先生なの? 保母さん……保父さん? とか言うんじゃないの?」


母親の言葉を受け、愛子はトーストにマーガリンを塗りながら海に尋ねる。

しかし、そのマーガリンを横からひったくると同時に、愛子に答えたのは姉の直子だった。


「あんた、そんなことも知らないの? 幼稚園の先生は教諭よ。保母……今は保育士だけど、それは保育園。目的が違うのよ。幼稚園は教育現場なの」


直子に偉そうに言われ、愛子はますます機嫌が悪くなる。

海を見ているとどうやらマーガリンが欲しいらしい。ついつい海をからかうつもりで、先に愛子が姉から取り返した。


「幼稚園に男の先生ってなんか変。普通、男はやんないんじゃないの?」


そう言って愛子は海を睨む。

八つ当たりモードが伝わったのか、海はマーガリンを諦めたみたいだ。目玉焼きにケチャップを掛けようと手を伸ばすが……。今度はそれを横から母が奪った。

愛子は思わずプッと吹き出す。

すると、海は怒るでもなくヘラッと笑った。


「あら、立派な心がけだと思うわ。就学前の教育で、子供の将来が決まるって言われる昨今だもの。ねぇ」

「あ、はい」


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