《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
スマホの電源も切ってテレビをつけた。

テレビでは旅番組がやっていて、有名な女優さんとお笑い芸人が一緒に旅館に入る所だった。
それから、たっぷり女優さんと芸人の旅を堪能した。山まで登り、旅先で「おいし〜」とソフトクリームを食べていた。

30分後、恐る恐るドアスコープをのぞいた。

いい加減もう帰ったでしょう。

ドアスコープから見える場所に2ブロックヘアが見える。

まだ、いた。


「勘弁してよ、みっともない」
そう言ってドアをそっと開けた。


本当はまだ廊下にいたとしたも、小学生の立たされ坊主みたいにして何時間でも待たせるつもりだった。
三浦の根性と誠意を試したかった。ところが、奴ときたら立ってないでしゃがんでるし。あれじゃあ、コンビニでたむろるヤンキーみたいだ。


『家の前で若い男を何時間も待たせるなんて、ヒドイ人よね』とか、ご近所に私の悪評が立ちそうで怖くなってきた。結局、私は三浦に負けたんじゃなくて世間に負けたのだ。



「あ、意外と早く開けてくれたんだ?」
にっこりと微笑む三浦は、優雅に立ち上がりドアの前に来た。



「で、会ったんだからさ、もういいよね? 帰って」
冷たくドアを閉めようとすると、三浦が足をドアの隙間に挟んできた。



「わっと! そういうのやめてよ。押し売りか新聞屋みたいだから」

実際、都会へ出てきてすぐにこんな感じで新聞屋に足を入れられて怖い目にあった経験がある。

『近所に越してきた』と言ってきた新聞屋にまんまと騙されてドアを開け、新聞屋だと知り断って閉めようとしたら足をドアの隙間に入れられ『挟まれて足が痛い!』と勝手に顔を歪められた。

『大丈夫ですか?』と聞くと『あんまり大丈夫じゃないけど、我慢するから三カ月朝刊だけ入れてよ』と言われ、仕方なく三ヶ月新聞を取らされた。

今なら余裕で断れるが、あの頃はまだ世間に出たてのヒヨッコで言いなりになるしかなかった。私も若くて純粋だったな。



でも、あの時、切実に思ったものだ。

『都会って、やっぱ怖かぁ〜』と。

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