《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
空港の出発ロビー入り口に入る私に向かって父さんが大きな声で叫んだ。
『真澄! 心配する事なかっ! わいなら出来っぞ!』
『あんた、声大きかぁ。恥ずかしかよ』
父さんの隣で小さく肩をすぼめる母さん。
『せからしか! 心配すっことなかよ!』
独り立ちする娘を心配する両親の気持ちを痛いほど感じた。
外国に行くわけじゃない。東京なんて飛行機に乗ればすぐに来られる距離だ。田舎から都会に出て一人暮らしを始め、就職するだけなんだから。
手を振って手荷物検査場へ入ろうとした私。
『真澄!』
父さんの声に振り返ると、父さんは大きく手を振っていた。
『なんかあったら……』
父さんの震える声を聞いて、父さんが泣いているんだなって、そこで気がついた。
初めて見た父さんの泣き顔は、少し遠かったのもあるが、日に焼けて深く皺の刻まれた顔が、くしゃくしゃになっていて笑ってるのか泣いているのかさえ良くわからなかった。
でも、隣に立っている母さんが父さんの腰につけていた白いタオルを取って父さんの目尻に押し当てていたから、やはり泣いていたんだと思う。
『なんもなくてもぅ、す〜ぐ電話すればよかぞ!』
怒ったように大声で言ってから、くるりと背を向けて出入り口の方へ向かって歩いていってしまった父さん。
恥ずかしいのもあって『なに、あれ』と検査場のお姉さんに首を傾げて見せたが、そのお姉さんは小さな声で私に言った。
『よかお父さんね』と。
あの時の父さんの背中は、今でも鮮明に思い出せる。
飛び立つ飛行機の窓から見える青い空をぼんやりと眺めていた。
膝の上に広げたおにぎりを一口食べたら、予想外に泣けてきた。
かあさんが「飛行機の中で食べればよかね」と渡してくれたお握り。
もう一口食べて、ぐにゃぐにゃに歪んで見える桜島を上空から眺めた。
二度と帰らないわけじゃないのに、涙が止まらなかった。
あの日、飛行機で食べたおにぎりの味は、生きてきた中で一番美味しくて忘れられないものになっている。