《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
万里の前にある大きなグラスにささっていたポッキーを取ろうと思って伸ばしかけていた手を急いで引っ込めた。

「ちゃんとしないとって何よ」

いくとか、いったのか? の会話の流れからして、『ちゃんとしないとだめ』というのは、避妊とかそういう話だろうかと思った私は周りをきょろきょろと窺った。

「万里、そういうのは大丈夫だから」
意識的に小声にして答えた。


「へえ、先輩のことだから、なし崩し的な話になってるかと心配しちゃいましたよ」


「まさか、そういうのは……お互いに大切な事だし、話し合ったというか……大人だし、ははっ」
額に滲んでくる汗をそっと指先で拭った。


「ほんと、大切ですよね。あとあと困りますし」

「困る困る」
頷きながら再びポッキーに手を伸ばした。

「ですよね。本命じゃないなんて事が判明したら、先輩、目も当てられないですもんね~」

「そうそう……ん? 本命?」
ポッキーを一本つまんで万里を見つめた。

「確認して話し合ったんですよね? ちゃんと付き合ってるのか、自分は本命の彼女なのかって」


サーッと血の気が引いていくのを感じていた。

てっきり、避妊の話かと思ったら付き合ってるかどうか? 本命の彼女かどうか? そんなこと考えもしなかった。


「先輩?」


考えてみれば俊也に「付き合って下さい」とは、一度も言われていない。「好きだ」といったような感情を表す言葉だけしか言われていない。



「そ、そんなの言わなくてもさ、自然と付き合ってる感じになったら、付き合ってるってことでしょ?」

「なりませんよ。きちんとしないと」


「でも、本命かどうかなんてさ、雰囲気でわかるよね? 普通」

「わかりませんよ。他にも女がいて、そっちが本命かもしれませんよ?」

ビールのグラスが運ばれてきてすぐにグラスを持ち上げ一気に冷たいビールを喉へ流し込んだ。

冷たいだけで、味のないビールだった。
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