《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
「こんばんは、ちょーど良かった。カットモデルやんない?」
とてもフレンドリーな笑顔だった。カットモデルなんか今までやったことがない。
カットモデルって、まだお金を頂くほどの腕をもっていない駆け出し美容師がその辺にいる子を捕まえてきて、自分の練習のためにタダで連れて来た子の望んでいないような髪型にしてしまうという若干恐ろしいイメージがある。
「は……あ」
今までの自分なら、当然断っていた。
「じゃあ、おいでよ」
アシンメトリーさんに手を引かれて店に入る。
誰もいない店内を見回してみる。
カットの練習をしていたのか3台ある椅子のうち、1番奥の椅子には人形の頭部分が半分刈り上げの状態で取り付けられていた。
なんとなく、足がすくみ始める。アシンメトリーさんは、駆け出しの美容師には見えない。落ち着いた風貌からいうと店長。もしくはマネージャーくらいの位置にはいそうだ。
入り口から二番目の椅子に案内されて、びくつきながら腰を下ろした。
カットクロスをつけられ、鏡の中の自分に向きあった。
「どのくらいまでなら切っていいの?」
ごくりと唾を飲み込んで、隣の椅子に取り付けられた人形の頭をチラ見した。
「……刈り上げ以外なら大体大丈夫です。お任せします」
「あ、それはダメだよ」
まるで、それは規則違反か掟やぶりみたいな言い方だった。
「え?」
鏡に映る美容師さんを見つめる。
「自分で決めてくれないと、他人任せじゃあ変われないよ」
何か私の心を見透かしたような言葉だ。私が言うとおりにカットしてくれるのだろうか?
「……」