隣に座っていいですか?

今日は燃えるゴミの日。

たくさんあるよー。

両手にゴミ袋を持ち
少し離れたゴミ置き場に行こうと思っていると

私より先に

小さな影が
ダッシュでゴミ置き場に走る。

風のようだな。
なんだ?

「クマちゃん。さくらのクマちゃん!」

桜ちゃんがパジャマのまま
裸足でゴミ置き場に走って行く

いや
道路の真ん中走ってるし
危ないし!

私は慌てて追いかけて
桜ちゃんを後ろから捕まえた。

「桜ちゃん車が来るよ」
早口で怒ったように言うと

「いくちゃん。さくらのクマちゃんがいないー」
泣きながら私に訴える。

クマちゃん?

いつも一緒のクマちゃん?

「ゆいさんがすてた。クマちゃん。ゴミの中。クマちゃん……さくらのクマちゃん」

何ですって?
えっ?って
もう一度
桜ちゃんに話を聞こうとすると

「桜!」
きつい声が聞こえて
振り返ると

田辺さんの婚約者が
怖い顔で息を切らして立っていた。

「いい加減にしなさい。新しいクマちゃん買ってあげたでしょう。いつまでもそんな薄汚れたぬいぐるみを持ってるなんて恥ずかしい」

怒鳴り声に一瞬桜ちゃんは小さくなるけど、大きな声で反論する。

「さくらのおともだちなの。たいせつなクマちゃん。お母さんがかってくれた、さくらのクマちゃん!」

亡くなったお母さんが買ってくれた
大切なぬいぐるみ。

「汚いのは汚いの。もうゴミ袋の中よ。そろそろ収集車が来るからいらっしゃい!」

捨てたのか?
桜ちゃんの大切な宝物を。
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