隣に座っていいですか?
「いやぁ!」

「桜っ!ワガママばかり言うと怒りますよ」

もう怒ってんじゃん。

そんな騒ぎの奥から
「さくらー」って田辺さんの声と、ゴミ収集車の音楽が重なる。

来た?
もう来た?
収集車来ちゃった?

私の腕の中で桜ちゃんは
音楽に反応し
大きく泣き声を上げ、首を横に振りながらポロポロと涙が止まらない。

「クマちゃん。さくらのクマちゃん」

小さな身体が震えてる
パジャマで裸足で
クマちゃんを助けに来たんだね。

「桜」
胸を抑えながら
田辺さんがやっと追いつくと

ワザとらしく溜め息をし
婚約者はうんざりとした表情で、田辺さんに甘えてすり寄る。

「紀之さん……」

私はその言葉を遮り
桜ちゃんを力任せに抱き上げ
田辺さんに渡した。

「郁美さん」

「桜ちゃんが飛び出さないように、しっかり掴んでいて下さい。あとゴミ収集車を見張っていて。来る前に見つけるから」

私は
猛獣の檻のような
頑丈なゴミ置き場のカゴを開き、中に入っている10コぐらいの可燃ゴミにまみれて次々と口を開ける。

うわぁ
匂いがすごい。

どれだろう。
どの袋に入っているんだろう。

ゴミ収集車のオルゴール音が近づくたびに、私の心音も大きくなる。

生ゴミの匂い、手触り。
赤ちゃんのおむつ。
バナナの皮。

痛っ!
缶詰の缶は不燃物だろうが!

指先から血を流しつつ
ゴミに負けずにクマちゃんを探す。

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