隣に座っていいですか?
「いくちゃん。カルピスです」
危なっかしい手つきだけど
ちょっと誇らしげに私にグラスを運んでくれる桜ちゃん。
「おかまいなく桜ちゃん」
ありがたくいただき
田辺さんと向かい合う。
田辺さんは困っていた
この段ボールだらけのリビングで
このだらしない男は
一応文筆業のくせに
幼稚園の書類が沢山あって
困っていた。
「だって、こんなにあるんだもん!」
園の決まりに目を通して印鑑。
延長保育の決まりに目を通し、希望するなら印鑑。
桜ちゃんの身上書を書き
園のお便りを読み
入園までに用意する物。
「もういらない」
またテーブルに顔を伏す。
現実逃避が得意なタイプだな。
「田辺さん得意そうだけど」
「仕事で文字ばっかり見てたら、もう読みたくなくなる」
「そんな事言ってたら、桜ちゃん幼稚園行けませんよ」
「それは困る!」
「じゃぁ頑張りなさいよ」
「……手伝ってもらえますか?」
声がちっさい。
「はぁ?」って大きく返事すると
「お願いします」
涙目になってるし。
あぁ
顔はいいのに残念なヤツ。