Z 0 0 Ⅱ
「あの、ごめんね?」
以前は、動物に言葉が通じるはずもないと、犬や猫に向かって話しかける人を見るたびに思っていた。
けれどその考えは、ここに来て少し変わったように感じる。
なにしろここにはドロイさんがいるのだ。
彼を見て、言葉を交わしてなおそう思える人間なんて、きっといないだろう。
「怖くないよ、大丈夫」
こんな無表情で対峙しては逆に怖がらせてしまわないだろうか、とも思ったが、意外にくりんと大きな目を見つめると、次第に喜色が浮かぶのがわかった。
安堵の溜め息を吐く。
ナマケモノはふにゃりと笑ったような顔を浮かべて、爪を差し出してきた。
これが、彼か彼女かわからないが、この動物なりのコミュニケーションの取り方らしい。
茅野は、恐る恐る手を伸ばした。
黒っぽい爪に触れる。
「うーん」
どうやらこの謎の唸り声は、ナマケモノの鳴き声だっようだ。
あまりに大きさの違う手と握手をしながら、茅野は小さく笑った。