猫を撫でる。
美梨が朝食のパンを食べながらこの話をすると、涼太は顔をしかめ、
「すげーなあ、女って怖い」
と言った。
この話は長い間、美梨の中で封印されていて、和臣にも話したことがなかった。
(あ……)
ふと、美梨の中で胸騒ぎがした。
この漠然とした夢が、正夢になるのではないかという気がした。
美梨は『正夢』というものを、
一度だけ見たことがあった。
まだ独身で実家にいたとき、飼っていたロシアンブルーがいなくなってしまった。
母の客がポメラニアンを連れてきて、そのロシアンブルーのルルに吠えかかった。
ルルは驚いてそのまま脱兎のごとく、開いていた勝手口から外へ逃げ出した。
庭のどこかに潜んでいて、すぐに帰ってくると思っていたのに、ルルは丸一日経っても帰って来なかった。
ルルは美梨の愛猫だった。
美梨が15歳の誕生日に、両親にねだってプレゼントしてもらった大事な宝物だ。
いなくなってすぐに母と共に近所を捜索した。
外の世界など知らない箱入りの猫だ。
心配で眠れなかった。
保健所にも問い合わせた。
でも、どうしてもルルは見つからなかった。
ルルがいなくなってから、5日ほど経った晩。
美梨はぼんやりとした夢を見た。