ライラックをあなたに…


数年振りの全力ダッシュ。

何年か前の大学の学祭で、余興の1つで走って以来だ。


まだ若いと思っていたのに、息が上がる。

差ほど遠く無い筈の自宅までの道のりが、今日ばかりはやけに長く感じた。


マンションのエントランスに到着した俺はすぐさまエレベーターのボタンを押すが、10階から降りて来る筈の階数表示が7階で停止した。


………遅い、遅過ぎる。


いつもは苛ついたりしない俺だが、さすがに今日は苛ついてならない。

ダメだ、待つくらいなら階段の方が早そうだ。



俺はエレベーター脇の階段を一気に駆け上がった。



自宅の玄関ドアの前。

何度も深呼吸して呼吸を落ち着かせようとするが、さすがに短時間では無理そうだ。


ドクドクドクドクッ……と、異常な速さで心臓が悲鳴を上げていた。

しかも、額から薄ら汗が滲み始めている。



俺は今一度深呼吸して玄関を開けた。


「ただいま~」


灯りは点いているが返事が無い。

まだ21時を少し回った所だけど、もしかして……もう、寝た?


俺は息を切らしながらリビングへ向かった。


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