ライラックをあなたに…
「起きたんだね」
再び、心地良い声音で語り掛ける彼。
彼は少し離れた所にある机に向かって、何か書き物をしていた。
名前は……何て言ったかしら?
「ん?」
私がじっと見つめるものだから、不思議に思ったみたい。
彼は机からベッドサイドへ歩み寄って腰を下ろした。
そんな彼に応えるように、重い身体を起こした。
柔和な表情で覗き込む彼。
「具合はどう?」
「……ん、さっきよりはだいぶ良いみたい」
「そう」
私の言葉に安堵したのか、ホッと小さなため息を漏らした。
「何か食べる?お腹空いたでしょ?」
「え?」
「食べやすそうなスープでも作るね」
彼はそう告げると、スッと腰を上げた。
「待って」
「ん?どうかした?」
首を捻りながら私を見下ろす彼。
「なっ……ま……ぇ……」
「え?」
「あなたの名前、もう一度教えて?」