なんで俺じゃあかんねん
なにも言わない。
俺は静かに歩み寄って電話を指さす。
「ピアノのこと?」
雅さんの目が少し見開かれる。
それから、また俯き小さく頷いた。
「お母さんから。
コンクールエントリーしたって。勝手に。」
勝手に?
「なんも相談なかったん?」
「うん。いっつもそうやねん。
私が出るはずやのに、いつも知らんとこで決まってて
参加することも、その曲も。」
「そんな・・・それっておかしくないか?
雅さんがでたいコンクールに、弾きたい曲で出るもんちゃうん?」
素人の考えやから、わからんけど。
どういう仕組みになってるんかも知らんけど。
でも、おかしいってことはわかる。
雅さんのことを雅さんが決められへんなんて、そんなことないやろ。
「ありがとう。」
困ったように少し笑って俺を見る。