なんで俺じゃあかんねん
俺は、意識的なのかそうじゃないのか、葵の前の椅子に座った。

真正面から彼女の顔を見る。

相手も、ぎこちなさはあるけど、ちゃんと俺の顔を見てくれた。

「「・・・・。」」

こうして、黙ってただ見つめあうなんて。

しかも、真正面で。はじめて?いや、前にもあった?

そんなのはどうでもいい。

葵の顔のパーツを一つ一つ観察する。

肌、白い。綺麗。母さんも歳の割には綺麗やしな。

目、まあ大きい。あと垂れてる。まつ毛は長いと思う。

鼻、普通。高くもなく低くもなく。でも鼻筋は通ってる。

唇は・・・ピンクやな。なんも塗ってないはずやけど。

あと、やわらかそう。

って・・・なに考えてんねん。

自分の思考に自分でつっこむ。

昼間、横山さんが言ってた『可愛い感じ』という表現を思い出した。

可愛い、か。

俺は、こいつのことが好きなんやし、そう思ったことはある。

真田先輩も、以前そんなようなこと言ってた。けど、先輩もこいつが好きで。

横山さんは、初めて葵を見て、そう言った。

んー。ずっと見慣れてたから、普通やと思ってたけど、可愛いんか?こいつは。

「な、なに?そんな人の顔じっと見て。」

「いや、そっちこそ。」

またいつものくせで言い返してもた。

「わ、私はただ・・・か、考え事してただけ!

視線の先にハルがおっただけやもん!」

見え透いた嘘を・・・。

言い返しそうになって、ハッと口をつぐんだ。
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