桜縁
すると、今度は慌ただしい物音が聞こえてくる。
「ご用改めである!!」
「!!」
兵士達の声だ。
月は慌てて、窓から外の様子を伺うと、たくさんの兵士達が宿屋を囲んでいた。
どうやら、後を付けられていたようだ。
「沖田さん!沖田さん!!起きて下さい!沖田さん……!!」
必死に身体を揺さぶり起こすが、沖田の意識は戻らない。
このままでは、沖田も一緒に殺されてしまう。
月は近くにあった、棒で出入りを塞ぎ。
布団や部屋にある布全てを引き裂き、それを繋いでいく。
すると、幾人者の足音が聞こえ、この部屋まで差し迫って来るのであった。
月は急いでそれを沖田の身体に巻き付け、反対側を柱に結びつけた。
「……よし!!」
布を引っ張り、安全なことを確認すると、月はぐったりしている沖田を抱き上げる。
「沖田さん……!待ってて下さいね!必ず、沖田さんを助け出してみせますから……!」
窓辺へと布を伝い下ろし、宿屋の裏口へと脱出する。
それと同時に、兵士達が襖を突き破って、部屋の中へとなだれ込んで来た。
「……!!」
兵士達はもの気の空となった部屋と、開いている窓に目をやる。
どうやら、逃げられてしまったようだ。
「くっそ……!!まだ、近くにいるはずだ!探せ探せーー!!」
兵士達は月達の後を追いかけて行った。
「必ずいるばすだ!探せーー!」
月は出来るだけ遠くへ逃げるために、近くに置かれていた、野菜が大量に乗っていた荷車に沖田を隠す。
これなら、気絶した沖田を運ぶことが出来る。
沖田を隠すと、月はそれに乗り込み、荷台を引く馬の背を叩いた。
馬は悲鳴を上げ、勢いよく走り出す。
「………!」
何処でもいいから、とにかく出来るだけ遠くへ逃げなければならない。
月は無我夢中で馬を走らせた。
すると町外れの所で、藩境にさしかかる。
ここでは藩を出るために、門番の検査を受けなければならない。しかし、月達を捜しているのか、警備が厳しいようだ。
月は商人のフリをして、藩境を越える者達と一緒に並ぶ。
なんとか、ここを抜けなければならない……。
つのる焦りと不安……。
荷台に乗せている沖田は目を覚まさない。
このままやり過ごせば、大丈夫だ……。
月はそう自分に言い聞かせ、その順番を待った。