桜縁




「次!」


いよいよ月達の番が回って来た。


門番が荷物を確かめ、月の前へとやって来る。


「通行手形を見せよ。」


「……え?」


「なにボサッとしている?手形を見せろ!」


「あ……、ああ……、手形……。」


幸いにして手形は荷台に乗ってあったのだ。月はそれを門番に渡す。


門番はそれを確かめると、月にそれを返す。


「……通れ。」


その言葉を聞き、ホッとする。


月は荷台を転がし、藩境を越える。


「……おい!止まれ!!」


「!」


後ろから呼び止められる。


もしや、バレてしまったのだろうか……。恐る恐ると振り返ると、門番が落ちていたらしい野菜を、拾い上げていた。


「落ちてたぞ。」


気づかれたわけではない。


月はにこりと笑うと、門番は荷台に野菜を乗っけてくれる。


しかし、違和感を感じたのか、門番の顔色が変わり、荷台に乗っけていた野菜を振り落としていく。


「……な、何をなさるのですか……!」


「………む!これは……!」


「!!」


荷台から沖田が顔を覗かせていた。


「貴様ーーー!!」


月はとっさに荷台から飛び降り、持っていた短剣で門番に襲い掛かった。


またたくまに、血の飛沫が上がる。


すると、今度は騒ぎを聞き付けた他の門番達が叫ぶ。


「いたぞーーー!!あいつらだーーー!!」


「!」


このままでは大変なことになる。


月は慌てて荷台に飛び乗ると、馬の背を強く叩き、全速力で走らせて行った。








追っ手の兵士達を振り切り、ようやく森の中で荷台を止めた。


「はぁはぁ……!」


重たい野菜を退かし、沖田を荷台から引きずり下ろしす。


敵がいないことを確認しながら、月は近くの木の幹に、寄り掛かるようにして沖田を座らせた。


沖田の顔は色素を失い、身体も冷えきっていた……。


だが、まだ微かにに息をしていた。


月は懸命に土を掘り起こし、大久保に幼い時に習ったことを思い出す。



もし、万が一毒にあたってしまったら、その毒を毒で制するといいが、分からない場合は、新緑の深い森で、【黄土水】を掘り起こし、飲むといいと言っていた。


月は無我夢中で掘り続け、黄土水を掘り起こした。


「はぁはぁ……。」


自分の手ぬぐいを取り、それを黄土水に浸し、濡らしたもので沖田の顔を拭う。

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