桜縁
「沖田さん……!」
月は慌てて沖田に駆け寄る。しかし、背後から敵の刃が迫っていた。
「危ない!」
「!」
沖田は背で月を庇うように前へ出ると、敵の刀をものの見事に受け止めていた。
「沖田さん……!」
沖田は薙ぎ払うように刀をふるい、敵の鮮血を撒き散らす。
「なんで、なんで逃げなかった……!?僕はこんな所で死んだりなんかしない……!」
「分かっています。だからこそ、戻って来たんです。」
「……?」
「沖田さんが私を守ってくれたように、私も沖田さんの力になりたいんです……!私も沖田さんと一緒に戦いたいんです!一緒に都へ行きましょう。」
月の背中が沖田の背に触れる。その温もりを感じる沖田。
自分から戦場に飛び込むなど、大した女である。
沖田の口元が緩み、微かな笑みを見せていた。
必ず勝てる……。そんな気がした。
「自分から捕らえられにくるとは……、女を生け捕りにし、男は殺せ!!」
頭の命令が下り、薩摩の兵士達一勢に月達に襲い掛かる。
圧倒的な速さ、月は兵士達を切り裂いていく。まるで、ただの女とは思えない動きだ。
沖田も血を吐いたとは思えないぐらい、その力を発揮していた。
あっという間に、敵は壊滅へと追いやられる。
「……くっそ!!退却だ!退却!!」
頭は直ぐさま撤退命令を出し、残りの兵士達を引き連れ、森の中へと消えて行った。
森には月と沖田だけが、その場に残された。
「ゴホッ!ゴホッ…!」
「沖田さん!」
月は刀を捨て沖田に駆け寄る。
すでに多量の血を吐いている。
「大丈夫ですか…?!」
「はぁはぁ……、月ちゃん……。」
月に手を伸ばそうとするが、その手が月に届くことはなかった。
事切れたかのように、沖田意識を失ったのである。
「………沖田さん?沖田さん……!!」
必死に呼びかけるが返事がない。
月は沖田の顔に触れる。
「………!」
吐血が予測以上に多かったせいか、身体がすごく冷たい。
早く手当てをしなければ、都に行き着く前に沖田の命が危うい。
月は破壊された荷台の板に、手綱をくくりつけ、沖田を引いて行った。
敵が去って行ったとはいえ、他の敵が潜んでいるかもしれない。
そう考え月は都ではなく、反対の山へと身を隠すのであった。
「はぁはぁ………。」