桜縁




月は女の力で、沖田を乗せた板を、引きずって行く。


沖田の息は弱く、今にも消えてしまいそうな感じである。


月は人目に付きにくい洞窟の中へと入り、見つけた薬草で薬を作り、沖田に与える。


それから自分の衣を裂き、水で濡らして沖田の額に置いたり、汗を拭ったりしていた。


「沖田さん……。」


心配そうに沖田を見つめる月。


だが、沖田は目覚めようとしない。


月は小刀を取りだし、沖田から出来るだけ毒が抜けるように、その血を吸い出した。

身体から毒を抜くには、血から抜くのが早い。月は血を吸い出し続けた。








「ううっ……!」


「……!」


沖田のうめき声で、目覚める月。どうやら眠ってしまったようだ。


慌てて沖田に呼びかける。


「……沖田さん!沖田さん……!」


「うう……!」


「沖田さん……!」


すると、それまで閉じていた瞳がうっすらと開かられる。


「……近藤さん……。」


「え……?」


沖田はそのまま再び眠りについた。


「…………。」


近藤とはおそらく、浪士組と呼ばれた沖田の仲間のことなのだろう。


沖田はずっとその人を捜していたのかもしれない。


月は水で濡らした手ぬぐいで、沖田の汗を拭うのであった。








それから月は外へ出て、助けを呼ぶように笛を吹き続けた。


それは近くまで捜しに来ていた、沖田の仲間の耳にも届いていた。


長州の町で別れたきり、姿を見せなくなっていた沖田をこの者も捜していたのだ。


そして、先日から鳴り響く笛の音と鷹の声。


さらに近隣の兵士達が慌ただしさ。予想からして、沖田の身に何か起こったことは確かだ。


沖田の剣の腕なら、簡単に捕まりはしないだろうが、相手は長州だ。油断ならない敵の上に、単独行動だ。何か起こってからではまずい。


鷹の道しるべを頼りにその者は、沖田の行方を捜し続けた。







一方で、沖田は月の手厚い看病と手当てのおかげで一命を取り留めていた。


「……………!!」


目が覚めるやいなや、身体が燃えるような熱さと、喉の乾きをおぼえ、慌てて近くの川の水に口をつけた。


「………はぁ…はぁ……。」


落ち着きを取り戻し、辺りを見渡すと洞窟の中にいた。


だが、月の姿が何処にもない。


「月ちゃん……?」


沖田は起き上がり、月の姿を捜した。


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