桜縁
月は近くの河原で小石を積み上げていた。
そこへ、沖田がやって来る。
「月ちゃん……。」
「……沖田さん!?」
驚いた顔をして月が沖田の方に振り返る。
「……もう、動いても大丈夫なんですか?」
「うん、それなりにね。それで、君はこんな所で何してるの?」
「お墓を造っていたんです……。」
「お墓……?」
「はい、ここに来る間にたくさんの人達の命が亡くなりましたから……、それを忘れないために………。」
「君は誰に対しても優しいんだね。」
「そんなことありません……、無情にも、私はこの手で人を危めたのですから、優しくなんてありません。」
「それでも君は優しい。僕は死んで行った奴らのことなんか、そんな風には考えられないからね。」
積み上げられた石に目を向ける。
こんな時代に命のやり取りをして、生きていられるのは奇跡のようなものだが、死んだ後までなんて、敵にまで覚えていてもらえるなんて、武士としてこんなに嬉しい結末はないかもしれない。
ふと月を見ると、様子がおかしい。
「月ちゃん……?」
「……?」
「大丈夫?顔色が良くないみたいだけど……。まさか君、僕にかまけてあんまり寝てないんじゃないの……?」
「そんなこと……ありませんよ……?少し、頭がぼぅとするだけ…………っ!?」
足元がふらつく。
「月ちゃん!?」
沖田が慌てて月を抱き留める。
月の身体が熱い。
「月ちゃん!月ちゃん……!!」
「………はぁはぁ………。」
額に手をやると、高熱を発していた。
どうやら心労がたたったようだ。
ふと、月の手首に紫の斑点が、浮かび上がっていたのを見つける。
月もどういうわけか沖田と同じ毒にあたっていたのだ。
「………このままだとまずいな……。」
沖田はとりあえず洞窟へと連れ帰り、月を岩陰に寝かせた。沖田は汲んで来た水を月に飲ませる。
「はぁはぁ………!」
容態が悪化しないうちに、なんとかここを出て、助けを呼ばなければならない。
沖田はその場に月を残し、山を下りはじめた。
一方、沖田の行方を追っていた者は、沖田と月が死ぬ思いで戦った場所へとたどり着いていた。
死体や黄土水を確認する。
出血の仕方からして、まだそう日にちはたっていない新しいものだ。