桜縁
土方がそういうと、沖田は部屋を出て行こうとする。
「総司。」
「?」
「今後は気をつけろよ。」
鬼副長の鋭い声が飛ぶ。
「……はい。」
そう返事をすると沖田は部屋から出て行った。
「……やれやれ、近藤さんといい、君といい……。人が良いのも困ったものですね?今の浪士組に彼女を受け入れる余裕なんてないと言うのに……。」
「困った時はお互い様だ。女にとやかく言うつもりはねぇ。」
「そこが、君の良い所ですね。」
「うるせ……。」
「ですが、芹沢さん達には、どう対処するつもりですか?」
「今考えてるとこだ……。」
上を見上げて考える土方。
今の浪士組には、この京都の守護にあたっている会津藩の後ろ盾が、絶対に必要だ。そしてそれには、局長・芹沢の力添えがいる。痛い所ではあるが、それは外すことは出来ない。
そして運の悪いことに、浪士組は二つの班に分離し対立をしていた。
前川亭にいる局長・【芹沢鴨】率いる組と、同じく局長・【近藤勇】が率いる八木亭の班だ。
どちらも同じ志を抱き、上洛したはずなのだが、局長・芹沢の行為ははなはだしく、遺憾であり、浪士組の評判を落とすものであった。
だが、芹沢が居てこそ今の浪士組があるのだ。悔しいが今の土方達には芹沢が持っているような、強い力は持っていない。
仲が悪いだけに、女の存在とは厄介なものである。
下手なことになる前に収集をつけたほうが良さそうだ。
沖田が廊下を歩いていると、前から仲間達がやって来る。
【藤堂平助】に【永倉新八】、【原田左之助】である。
どうやら三人は見回りから戻ってきたところだったらしい。
「……お、総司!」
先に気づいたのは、小柄で可愛らしい弟分のような平助であった。
「なんだ、お前。もう帰って来たのか!」
「よ!しばらくだったな 総司。」
その後ろから原田と永倉もやって来る。
「で、長州の動きはどうだったんだ?【高杉】達に何か動きがあったか?」
「それはもう、土方さん達に話してあるよ。しいていえば、もうすぐ薩摩と戦をするみたいだったよ。」
「薩摩と戦か……。あそこの藩は昔から仲が良くなかったからな……。」
「まったく、あちこちで戦ばっかりで、面白くねぇな!ちっとは仲良く出来ねぇのかよ……。」
皮肉を言う永倉だが、どこか残念そうだ。