桜縁


すると、隣にいた原田がニヤリと笑う。


「それをお前が言うなよ、新八。薩摩と長州が戦わなくなったら、それこそ俺達が大変なことになるだろうが。」


「新八さんは ただ戦いたいだけだろう?」


「あったり前だろうが…!長州や薩摩と喧嘩をするために、ここへ来たってんのに……、その喧嘩が無くなったら話しになんねぇだろうが……!」


元々喧嘩好きな永倉は、戦いたくてもどかしくてならないのだろう。


「なら、今からでも長州に行って来たら?新八さんなら仲間に入れてくれるんじゃないかな?」


「馬鹿言え…!俺は脱藩して来たんだぞ!?そんな奴を長州や薩摩のお偉いさんが、受け入れてくれるかっつうの!!」


「アハハハ……!」


「それより総司、お前毒にやられたと聞いたが、大丈夫だったのか?」


「………!」


「そうだぜ、なんか大変な毒だったんだろ!?休んでなくていいのか……?」


さすが、話しが早い。大方土方が話しでもしていたのだろう。


「大丈夫だよ。大したことないし。」


「そういえば、玄関に見慣れない女物の草履があったけど、お客さんか?」


沖田の間から覗き込むようにして、平助が土方の部屋の方向を見る。


「……評判も後ろ盾もない浪士組の副長さんに、お客さんなんて来る物好きなお方はいないでしょう?」


「総司、お前な………。」


呆れたように肩をすくめる原田。いつもの冗談にしてはトゲがありすぎだ。


「で、どんな娘が来てるんだ?美人か…?!」


「新八、お前まで……。」


だが、気になるものは気になる。女のお客さんなんて滅多にないことだし、むしろ無縁の状態と言っていい。


「なあなあ!どんな人だよ?総司は知ってんだろ……?」


目を輝かせる平助。彼もまた気になって、仕方がない様子。


「知らない。」


「は……?」


「そんな人見たこともないし、聞いたこともない。」


「何言ってんだよ?たった今、向こうにいたんだろお前?教えてくれたっていいじゃないか?」


「良くない。」


スッパリと拒否する沖田。どうやら、かなり機嫌が悪いようだ。


「じゃあ、いいよ!俺達で見てくるから……!行こうぜ 新八さん!」


「おう!」


二人は沖田を無視して、広間の方へと行ってしまう。


「まったく……。」


「左之さんはいかないの?」


「行ったっていないんだろうが…?」
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