桜縁
だが、それを避け続けるにも限界がある。
月を追い詰めたところで、原田の切っ先が当たり月の刀が弾かれ宙を舞う。原田は勢いで、月の身体を貫いてしまう。
「………!!」
しかし、貫かれたはずの月の姿がない。
「!?」
驚く原田。
月はその間に宙を舞った刀を取り、原田の背後へと下りる。
その気配と共に、原田が攻撃に転じる。
だが、一瞬だけ月のほうが速かった。
原田の槍を交わし、刀の切っ先を喉元に当てていたのである。
これには周りの者達も、言葉を失ってしまう。
まるで舞を舞う鶴のように、艶やかな試合であった。
終わったと同時に辺りから、歓声と拍手が沸き起こる。
原田は月の肩を組み、労をねぎらう。
すると、殿様が立ち上がり、月の前へと進み出る。
「……誠に良い試合であった。そなた名前は何と申す?」
「月と申します。」
「月か……。そなたには可憐なる剣技をみせてくれた、礼がしたい。そうだな………、そなたはわしの友人の妻とする。」
「?!」
いきなりの言葉に動揺する月達。
いったい全体どういう事なのか、思考が追いついていかない。
「と、殿…!何を申しますか!この娘そのような娘ではございませぬ!そのような事は申されますな!」
慌てて殿のひざ元へと来る近藤。
だが、殿様は本気であった。
「何を言っておる。この私が言う男だ。お前達のような身分には、もったいないお方なのだぞ?有り難く素直に思えばよいのだ。礼としては充分ではないか。」
「し、しかし……!彼女は……!」
「近藤君!君達のような身分の低い者からすれば、何を言っても無駄かもしれんが、これは名誉あることなのだぞ?この先、私は長州藩と手を取り合うつもりだ。この娘が嫁に行けば、良い懸け橋となってくれるだろう。そうは思わぬかね?」
「………!」
「なっ……!」
とんでもない言葉が飛び出て、周りの者達も驚きを隠せない。
月もそっと近藤の方を見る。沖田を助けた恩で浪士組に隠れるように身を寄せているが、浪士組にとっては月が存在する価値がない。
すべては近藤の一言に掛かっていた。
「………し、しばし…考える時間をいただきたい……。」
「うむ……、それ程までには待たれぬが、考える時間ぐらいはやろう……。それと、そこの若者……、沖田と言ったか?」