桜縁
土方は月に近寄り、青い布ぐるみを差し出す。
「……?」
「餞別だ。受け取れ。」
「………。」
布を土方から受け取り、それを広げると、誠の文字が刻まれただんらん模様の浅葱色の羽織りが目に飛び込んできた。
「隊服……?」
「土方さん これ……!」
「別れの手土産にしては、十分だろうが……、もし、必要な時にそれを着てたら、お前はいつだってこの新撰組に戻れるってこれる。お前はこの新撰組の小姓だからな。」
「土方さん……。」
自分は仲間として慕う彼らを見捨てようとしているのに、彼らは月を攻めるどころか、優しく扱ってくれる。
涙が溢れそうになる。
「ま、お前みたいないい女を、奴らに引き渡すのも惜しいからな。今の間に逃げちまえ。」
「……はい。」
「平助、頼んだぞ?」」
「おう、任せておいてくれ。じゃあ、行こうぜ月。」
「うん、……今までお世話になりました。」
「ああ、達者で暮らせ。」
月は土方に深々と頭を下げると、平助と共に屯所を後にした。
「はぁはぁ……!」
平助の後について山間まで来ていた。ここからなら、人目を避けて都から脱出が出来る。
治安が悪い京で、よくここまで誰からも気づかれずに来れたものだ。
「大丈夫か、月……?」
「ええ、大丈夫よ。」
急な斜面を平助に手を引かれながら上る。
「……ここまで来れば大丈夫だ。あとは山を越えて行けば、江戸へ続く道に出られるはずだ。」
「………。」
真っ暗な山道が続いている。明かりとなるものは空から、差し込む月明かりしかないが、これなら周りに敵がいても気づかれずにすむ。
「明るくなってからの移動は面倒だから、夜のうちに越えて行け。」
「分かった。」
「月……。」
「ん?」
「お前といられて楽しかったぜ……!それと、面倒に巻き込んでごめんな?月には何の関係もないのに……。」
「ううん、そんなことない。こうやって危険を犯してまで、私を逃がそうとしてくれて、謝らないといけないのは私のほうなのに……。皆さんにお礼を言っておいて、本当にありがとうと………。」
「ああ、ちゃんと伝えておくよ!」
「ありがとう。じゃあ……。」
月は繋いでいた平助の手を離れ、暗い山道へと入って行った。
月が進んで行く山道は本当に真っ暗だった。