桜縁




方角を間違えたら、一発で迷子になってしまい、一生森から出られなくなりそうだ。月は方角を確かめる月の位置を、確認しながら走り続ける。


明かりが欲しいところだが、いつ敵に囲まれるか分からないので、欝すらと差し込む月明かりのみが頼りだ。


しかし、あともう少しで山を越えられるという所で、巡回していた長州兵達に見つかってしまう。


「!」


「怪しい女だ!」


「捕まえろーー!」


慌てて来た道を引き返す月。


だが、運悪く崖っぷちへと出てしまう。どうやら道を間違えたようだ。


敵が差し迫って来る。


月は意を決して、持っていた小太刀を抜き、敵を迎え撃つ。


実力では月の方が断然上だが、力の差では兵士には勝てない。しかも後ろは断崖だ。落ちたら一たまりもないはず。


月は後ろも注意しがら、戦い続けるが、運悪く足を滑らせてしまう。


「!」


ぐらりと傾く身体。


「きゃあーーーー!!」


月は断崖から暗闇へと真っ逆さまに落ちて行った。







一方、蛍の婿としてやって来た沖田は、会津を始め長州やそれらの重役達と食事をしたり、妻となる蛍の演奏を聞いたりし、男なら一度は夢みる豪華なひと時を体験していた。


風呂から上がり、ひたひたと長い廊下を歩いて行くところで、何か聞こえたような気がし、夜空を見上げた。


辺りはひっそりとし、虫の鳴き声が聞こえてくる。


「……………。」


満月の月が夜空を飾り、風が沖田の髪を揺らす。


蛍との婚約の間は、この会津藩邸にとどまることになっている。


他の者達は知らないが、沖田のこの結婚は新撰組を守るための術、いずれはここから脱出し、新撰組へと帰るつもりだ。


そう思えば、敵の長州の者を見ても、平静を装えた。


ふと、月の顔が頭に浮かぶ……。


自分を助けたがために、都まで来ることとなり、あげくに長州の者と無理矢理結婚させられるのだ。


互いに結婚する身だからと、月のことを想って手を離してしまったが……、離すべきではなかったと思うのだった。


見つめていた自分の手を握りしめ、夜空に浮かぶ月を見上げる。


月が婚姻を受けたなら、必然と敵にならざるを得ない、あるいは助けだせるかもしれない。


沖田はそのまま、ぼんやりと月を眺めていた。






それからしばらくして、藩主は姪である蛍の元を訪ねていた。


< 50 / 201 >

この作品をシェア

pagetop