桜縁
方角を間違えたら、一発で迷子になってしまい、一生森から出られなくなりそうだ。月は方角を確かめる月の位置を、確認しながら走り続ける。
明かりが欲しいところだが、いつ敵に囲まれるか分からないので、欝すらと差し込む月明かりのみが頼りだ。
しかし、あともう少しで山を越えられるという所で、巡回していた長州兵達に見つかってしまう。
「!」
「怪しい女だ!」
「捕まえろーー!」
慌てて来た道を引き返す月。
だが、運悪く崖っぷちへと出てしまう。どうやら道を間違えたようだ。
敵が差し迫って来る。
月は意を決して、持っていた小太刀を抜き、敵を迎え撃つ。
実力では月の方が断然上だが、力の差では兵士には勝てない。しかも後ろは断崖だ。落ちたら一たまりもないはず。
月は後ろも注意しがら、戦い続けるが、運悪く足を滑らせてしまう。
「!」
ぐらりと傾く身体。
「きゃあーーーー!!」
月は断崖から暗闇へと真っ逆さまに落ちて行った。
一方、蛍の婿としてやって来た沖田は、会津を始め長州やそれらの重役達と食事をしたり、妻となる蛍の演奏を聞いたりし、男なら一度は夢みる豪華なひと時を体験していた。
風呂から上がり、ひたひたと長い廊下を歩いて行くところで、何か聞こえたような気がし、夜空を見上げた。
辺りはひっそりとし、虫の鳴き声が聞こえてくる。
「……………。」
満月の月が夜空を飾り、風が沖田の髪を揺らす。
蛍との婚約の間は、この会津藩邸にとどまることになっている。
他の者達は知らないが、沖田のこの結婚は新撰組を守るための術、いずれはここから脱出し、新撰組へと帰るつもりだ。
そう思えば、敵の長州の者を見ても、平静を装えた。
ふと、月の顔が頭に浮かぶ……。
自分を助けたがために、都まで来ることとなり、あげくに長州の者と無理矢理結婚させられるのだ。
互いに結婚する身だからと、月のことを想って手を離してしまったが……、離すべきではなかったと思うのだった。
見つめていた自分の手を握りしめ、夜空に浮かぶ月を見上げる。
月が婚姻を受けたなら、必然と敵にならざるを得ない、あるいは助けだせるかもしれない。
沖田はそのまま、ぼんやりと月を眺めていた。
それからしばらくして、藩主は姪である蛍の元を訪ねていた。