桜縁
「うむ……。」
藩主は女達の間を通って、一人ずつ顔を確かめていく。下働きをする女を探すためだ。
「……?」
ある娘が藩主の目に留まる。
沖田もその様子を見ていた。
「顔を上げろ。」
娘の顔を無理矢理上げさせる。
「……!!」
その娘は新撰組にいたはずの月であった。
驚きを隠せない沖田。一人の兵士が藩主に近づく。
「……川に打ち上げられていた所を、捕まえて参りました。」
「……そうか。……この者を残して、他は遊郭に売ってしまえ。」
「はい。」
兵士達は女達を遊郭に売るために、その場から去って行った。
たった一人、その場に残される月。
「……お前は何処の者だ。」
「………。」
「川で溺れていたらしいが、田舎から来たのか?」
どうやら、藩主は変わり果てた月の姿を、新撰組にいた月だとは思っていないようだ。
「………。」
「悪いようにはせん。訳があるなら話してみよ。」
こんな状況にした本人に言う言葉などない。月は視線を逸らし、話そうとはしない。
「………部屋に連れて行け。明日からお前は、姪の侍女とする。」
「!?」
それだけを言い残し、藩主達は去って行く。月は驚きを隠せないという表情で、兵士達に連れて行かれた。
それを沖田が見ていたことに気づくことはなかった。
一方、花嫁が逃げ出したということで屯所は、大騒ぎとなっていた。
「月さんが逃げた……?」
連れていた部下から、月がいなくなったことを告げられる桂。月は夜の内に忽然と姿を消したらしく、見たものもいないと言う。
「それは本当なのか?」
「はい、昨夜のうちに逃亡したようです。おそらく新撰組の奴らが、逃がしたと思われます。」
「新撰組が……?」
そう考えるに、可能性としては充分に有り得ることだ。
しかし、新撰組の者達は皆宴会へ出席していたはずだ。万一に備えて監視していたので間違いはない。
途中数人外へ出ていたが変わった様子はなく、月との接触も無かったはずだ。
「桂様!これは桂様に対して、大変なる侮辱!彼らを締め上げ、あの女を捕らえて参ります!!」
「そうです桂様!このまま長州には帰れません!どうか罰せられる許可をお与え下さい!!」
部下共々に新撰組が月を逃がしたと思っているようだ。