桜縁
飾りを置いて、二人は音がする方へと走り出す。
このまま幸せな時が過ぎればいいと、そう願わずにはいられなかった。
月が来てからというもの、沖田と月は一緒に行動する時が多くなっていた。
長州の婿となるのだから、沖田もそれなりの学識がないといけない。最初はめんどくさがっていた沖田も、月と一緒なら勉強もするのであった。
はたから見れば、面倒見の良い侍女と、悠々自適な主と言ったところだろうか。
そんな二人の姿を見る者は誰も、二人の間に入ることはなかった。
「……では、沖田様は勉学に励んでおられるのね?」
「はい。とても頑張っておられます。」
沖田の話しによれば、勉強したのは元服前に寺子屋で勉強した以来だとか……。
久しぶりの感覚に、沖田も頭を悩ましながらも、一生懸命にやっていた。
「あまり感情や行動を表に出さない方だとは思っていたけど、沖田様もやるのね。私もお勉強のお手伝いに行こうかしら。」
蛍も月からの話しを聞くようになってから、随分と明るい表情を出すようになっていた。
「はい、きっと喜ばれますよ。」
目を細めて笑う月。蛍はいそいそと支度を整え沖田の部屋へと向かった。
「沖田様。」
閉じられていた障子を開け、中へと入る蛍。月のおかげで自分の中での蟠りが解けたのか、沖田の側へと自分から近づくようになっていた。
「何しに来たんですか?」
「学問をされていると聞きましたので、私も一緒にしようかと思いまして。」
沖田はちらりと私の方を見てから、隣に座る蛍に視線を戻す。
「分かりました。」
沖田は自分の机の隣を開け、蛍が持って来ていた道具を置いた。
月は邪魔にならないように、部屋を出ようとする。
「月さん。」
「?」
沖田に呼び止められ、振り返ると淡く微笑む沖田の笑みが目に入った。
人前では怪しまれるといけないので『さん』付けで呼ばれていた。
「ちょっと僕の隣に座って、墨を擦っていだけませんか?彼女の分も必要なので。」
硯を見れば、残りが少なくなっていた。蛍の分まではないだろう。
「分かりました。」
月は沖田の隣に座り、墨を擦ろう手を伸ばすと、墨がゴソッと動き出す。
「!」
驚いて良く見てみれば、それはカブトムシであった。
「き、きゃあっ!」