桜縁

一人湯屋へと入り、まだ温かい湯舟に浸かる。


「はぁ……。」


と、ため息をついて身体を伸ばす。


貴族の風呂だけあって、かなりでかい。普段は使い終わった湯に、侍女達が一緒になって入るのだが、月は遅くまで仕事をしていたため、一人で入ることが多くなっていた。


こんな時に考えることは、大抵生き別れとなった史朗のことだ。


今頃どうしているのだろうか、と考えてしまう。


もしかしたら、殺されているかもしれないし、薩摩で働かされているかもしれない。


考えても拉致があかない。


悪い考えを追い払うように、月は湯で顔を洗い、湯舟から上がった。





着物を着替えて表へと出ると、誰かから呼び止められる。


こんな時間に起きている者なんて、護衛兵ぐらいだ。


おそるおそる振り返ると、そこには沖田がいた。


「沖田さん…?」


「女の子がこんな時間に、湯屋に入ってたらまずいんじゃないの?」


壁に寄り掛かるながら、まるで月を待っていたかのようだ。


「待ってて下さったんですか?」


「うん、まあね。行こうか。」


「はい。」


二人は誰もいない道を歩いて行く。


横を歩いている沖田の髪が、夜風に誘われるように靡いていた。


「昼間は楽しんだみたいですね。」


「なに、妬いてるの?」


「そんなんじゃあ、ありません。蛍さんと仲が良くて良かったと思っただけです。」

仲が悪いよりかはずっといい……、なぜだかそう思え、目を細めた。


それを見た沖田がむすっとして、私の顔をじっと見た。


動いていた歩みが止まる。


「……どうかされたんですか?」


「君さ、それ本気で言ってる?蛍と僕が仲が良ければいいって。」


「それはそうですよ。仮とはいえ、夫婦になるのですから。」


「ふーん…、そう考えるんだ。」


「な、何か問題でもあるんですか?」


「君、蛍のことが好きなの?」


「な……!」


そこでそんなことを言うか!?


驚きで声を上げるが、沖田の目は真剣であった。


「………同じ女ですから。」


「そう。」


即決ない返事をし、再び歩き始める。


月は意を決し口にするにも、恐ろしい記憶を口にする。


「私、蛍さんを暗殺仕掛けたことがあるんです。」


「え?」


月は沖田と出会うまでのいきさつを話した。それは、これからの関係では必要だと思ったからだった。
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