桜縁
「……そっか、そういうことだったのか。」
「だから、蛍さんのことは私なりの罪滅ぼしです。」
そう、蛍は月が暗殺仕掛けた者だとは知らないでいる。
それがせめてもの救いであり、罪滅ぼしが出来る機会でもあった。
「なら、僕も似たようなものかな……。」
「?」
「僕にも姉が一人いたよ。」
「お姉さんがいるんですか?」
姉がいたとは初耳だ。ってきり沖田は、近藤の身内か何かだと思っていた。
「うん。でも、結局捨てられちゃったんだけどね。」
月も沖田も兄弟と生き別れ、一人ぼっちになったってことだ。
「でも、お姉さんの居場所は分かるのでしょう?居場所が分からないよりずっとましです。それに、捨てたくて捨てたんじゃないと思いますよ。」
「なんで?」
「だって、兄弟と離れて寂しいがらない人はいないじゃないですか。」
月がそう言うと、沖田はスッと目を細めた。
「そうだね。……そうだったらいいな……。」
沖田は淡く微笑んだ。
庭へ出ると、月明かりに照らされて、円がいくつも描いてあった。
おそらく昼間沖田達が遊んだものの跡のようだ。
「少し遊んで行こっか?」
「こんな夜中にですか?」
「大丈夫、誰も見ていないよ。」
沖田に誘われ、月は初めて宮中の遊びをやった。二人の時間が穏やかに流れる。
「はい、また僕の勝ち。」
「!」
しまった……!
また、沖田が勝ってしまった。これでは勝負になっていない。
月は沖田にこてんぱんに打ち負かされていた。
「じゃあ、約束通りお願い聞いてよね。」
「はいはい。」
ただ勝負するだけじゃあ面白くないということで、勝った方の言うことを一つだけ聞く、というルールを作っていたのだった。
で、結局負けた月は沖田の願いを聞くはめになっていた。
「でもその前に、もう休もうか?さすがにこのまま起きていたら、明日は辛いし……。」
「そうですね。」
ザワザワと側で木が揺れる。夜空の月が西に傾きかけていた。
「明日は稽古をされるんですよね?」
「うん、さすがに腕が鈍ちゃうしね。」
部屋に篭りっきりでいたから、久々に刀を握ることが出来るのだ。とは言っても稽古だから、竹刀に他ならない。
「月ちゃんも来るでしょう?」
「はい、蛍さんの傍にいなくてはいけませんから。」